直接現金支払いが会社を救う
 現在、企業の取引先への支払いは銀行振込が一般的だ。しかし当社(九州不動産専門学院グループ)では、必ず集金にきていただいた方に現金で手渡すようにしている。

集金なきところ取引なし

 小さな企業とはいえ、月額1200万円以上になる運営費を全て現金で決済するため、それは社員にとっても大変な作業になる。しかし、直接現金支払いは当社の社運をも左右しかねない重大事である。だから、どうしても集金に来ていただけない企業とは最初から取引しないことにしている。
 支払い日は相手先の都合にあわせて、10日・20日・末日と定めている。その日が日曜や祝日と重なるようであれば直後の平日に日延べさせてもらう。また、その日が先方の都合で無理な場合は翌月に延期していただく。例えば6月10日に来られない時は翌7月10日に、それも無理な場合は翌々8月10日に、という具合である。

3人体制で支払い業務のシフトを組むワケ

   さて、この支払い業務はA・B・Cの3人体制で組んでいる。
 まず、Aは、①支払い額を算出する②先方に金額の確認を入れる③集金にお出でいただく日時と場所を指定する④以上のことを直接、支払い担当者に書面でもって報告する?ここまでがAの仕事だ。一度にお出でいただくと混み合うので、1社と1社の間隔は5分間にしておく。
 2人目にあたるBは、①支払い場所に待機する②集金にお出でいただいた方の会社と金額を確認する③現金を手渡す④領収書をいただく⑤この時、業者の方に1ヶ月の労をねぎらい、今後1ヶ月の取引きを依頼する⑥また、改めていただきたいことはこの時に伝え、反対に当方の不手際があればお詫びをする。以上がBの仕事だ。世間話に及ぶこともあるが、次がつかえているのでとにかく5分間で済ます。
 そして3人目のCは、①業者の方がお出でいただいた都度、本部に内線連絡を入れる②待ち合いの間にお茶を出す③Bの補助作業を行いながらBと業者の方とのやりとりを記録する。
 以上が支払い業務のシフトだ。もちろん「社員皆営」の原則ゆえ、優秀な営業担当者もこの体制に組み込むようにしている。これは私たちの業務が実にたくさんの皆様のおかげで成り立っていることを体得させ、その一つ一つにすべてお金が掛かっていることを理解させる上で決定的な経験になる。また、定められた期日までの業務達成がいかに死活的な課題であるかを学習させる格好の授業にもなる。

成果の第1は取引先との人間関係

 さて、直接支払いの具体的な成果の第1は、当方が困った時に期間の長短は別として支払いを待ってもらえる人間関係を築けることだ。これが手形決済だと一発で「不渡り」となり、企業にとっては計り知れない信用失墜となる。人間関係の希薄さのなせる悲劇の一種であろう。私たちの会社が創業以来30年間に1度もかかる事態に陥ることがなかったのは、一貫して直接現金支払いだったことと、それゆえの人間関係のおかげだったと自負している。

値段交渉と販促の機会も毎月訪れる

 直接支払いの具体的成果の第2は、毎月値段交渉の機会が巡ってくるということだ。先方にとっては毎月販促の機会が訪れることでもある。仕入価格の交渉とはハッキリいえば「社運の交渉」だ。よって、このシフトの中に営業担当者を組み込むことは、当人の外交官としての折衝能力や交渉術を高める上でまたとない機会となる。社運は業績もさることながら、むしろ「仕入価格」にかかっている。年期を経て、風雪に耐えた企業であればあるほど、この鉄則は身に染みて感じるはずだ。そして、この理解を総務担当者にとどめておくか、営業担当者を巻き込む形で全社的な理解にまで発展させるかが、企業盛衰の岐路といえよう。

信頼関係を築くには地道な直接交流しかない

 経営とは「お願いし、お願いされる関係」である。しかし、その根底は人と人との信頼関係だ。それではその信頼関係を築き上げる方法にウルトラCなるものがあるかというと、それは直接交流の回数を地道に積み上げることしかないであろう。まさに「急がば回れ」とはこのことだ。100社に毎月、直接現金で支払うと仮定すると、年間1200回も直接交流の機会が訪れることになる。まさに「チリも積もればヤマ」である。
 「当方にとっての支払い」と「先方の取っての集金」はメダルの表裏の関係であり、同義である。この行為の絶対的価値とは、経営の帰結であると同時に出発点であるということだ。これを非人格的に、かつ簡単に済ますという思想ほど健全な経営を破壊する誘惑はない、と思うゆえんである。
(平成22年2月27日 記)

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