がんばれ銀行員
ライセンスメイト篇
平成9年9月号「サイレントマジョリティ」
このところ銀行をはじめとする金融機関の斜陽、倒産、合併、再編が相次いでいる。一口に金融機関といっても、あくまで「日本に発祥の起源をもつ金融機関」のことであることはいうまでもない。日本債権信用銀行(旧「日本不動産銀行」)に至っては本店もいわずもがな、全支店を売却する方針ときく。しかも、それだけにとどまらず、3,000億円にも及ぶ公的資金を投入してでも救済するつもりらしい。役員クラスの年収も900万台に落とし、行員の数も2,500人中600人をカットするという。
しかし、私見を申し上げれば、以上のような諸方策は事柄の本質を全くもってとらえていない典型と思われる。ここにひとつのデータを提示したい。
【表1】
【表2】
【表3】
表1の上段は、一般ユーザーに対する金融機関(主として銀行)の人間、もしくは肉声による公式の応待時間の年間の総和である。
(A)午前9時から午後3時までで6時間である。
(B)月曜日から金曜日までで5日間である。
(C)1年間は52週間である。
(D)祝日は15日間のため減算処理した。
(E)一般ユーザーのために公式に開放している年間の時間総和である。
以下、これを「貢献タイム」と称する。
表1の下段は、年間における利用者が利用者のためと実感できる稼動時間の率である。
(E)前掲のため省略
(F)年間の生活タイムの総和で8,760時間
(G)(F)に占める金融機関(主として銀行)の人間もしくは肉声による公式の対応時間の100分率である。以下これを「貢献率」と称する。
表2は、週間テーブルの形で表1をもっと分かりやすく図示したものである。(アミの部分が寄与タイム、貢献タイムの17%部分である)1日を6時間×4ヶと考えると、稼動比率「4ヶ×7日」分の「lヶ×5日」だから、28ヶ分の5ヶとなり、祝日を加えない段階で、17.86%(小数点以下第3位四捨五入)の貢献率にしかならない。これに祝日を加えることになるので、表1、下段の(G)のように、16.78%にまで下がってしまうことになる。
これを1日24時間とすると、1日4.03時間すなわち「4時間と1分48秒」にしかならないと想像すればもっとイメージがわく。
貢献率の16.78%とは、もっと具体的に言えば、1年に計算すると365日×16.78%=61.25日ということになる。これは元旦から24時間で稼動する会社で言えば、3月3日の午前6時までで操業打ち切りする形となる。よって3月3日午前6時から12月31日の除夜の鐘まで長期休暇とあいなることになる。
ここで表3の説明に移ろう。これはアメリカに発祥の起源をもつ金融機関(銀行)の貢献タイムである。何と1日24時間、1年8,760時間である。勿論、世界で最大のBKのひとつである。全世界に支店網をもつこの銀行は文字通り全世界でこのシステムを採用していると聞く。銀行版CNNそのものだ。
それでは、なぜこんな競合が日本国内に存在していて、日本の金融機関が共存しているのかというと、ひとえにがんじがらめの規制に頼っているのが実状である。ひとことで言えば、外国から進入してくる競争相手には、関所を設けているというわけだ。(楽市楽座の反対)
恐ろしいシナリオであるが、ここで全ての規制を取り払ってみたと仮定しよう。貢献率100%と16.78%とでは、つまり1年365日開けているところと3月3日午前6時までしか開けていないところでは、はじめから勝負にならないことは賢明な読者なら直ちに判ることであろう。
これの解決策はだたひとつ。「一斉始業・一斉終業の伝統を廃止し、ローテーションシフトに切り換えることである」。これは現在の労働法規には何ら手を加えることなく実行できる。ただ、頑強な反対勢力があるとすれば、銀行マンの総意を反映していない天下りと称される一部の人たちだろう。長年、9時5時週休2日制と受動的思考につかってきている彼らにとって「ローテーションシフト」などということは恐らく驚天動地のことであろう。顧客より、出身官庁を気づかう姿勢が金融機関の総官業化を推し進めている。
庶民の台所や商売人の財布から、ますます遊離していく日本の金融機関の姿を見て憂慮するのは一人私だけではないはずだ。国家・国民の財布であるべき、あるいは日本株式会社の経理部であるはずの金融機関が毎日4時間1分48秒しか開いていなければ、国民や産業界から見捨てられていくのは歴史の必然といえるだろう。金融機関には、もう一度、自由競争と市場経済の原理原則に基づいた開眼を切に望むものである。
官業としてスタートしたJRやNTTができている24時間365日営業をそもそも民業として営まれている金融機関ができないはずはないと、国民は期待している。日本企業の尊厳と誇りにかけて奮起を望みたい。今、目の前に表3に示される「黒船」はきているのだから。