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いかに社員と運命をともにするか

博多独楽篇

平成12年3月号「私的経営のこころ 中小企業の生き延びる道(3)」

 私の一日は、目覚めた時、今日ある命に対して感謝を捧げることから始まる。今、この瞬間に生を受けている実感こそが、私の仕事に対する原動力だ。

 身支度を終えたら、神様にお参りをして社員とともに社用車で学院へ向かう。実は、毎朝7時50分に当社の新入社員を交替で、南区高宮にある私の自宅まで迎えにこさせている。これは、平成4年10月から行っている新人研修のひとつで、男女を問わず、新入社員には最低50回以上行わせる。週1回担当するとして約1年近くかかるので、次の新人に上手に継承できている。

 方法は、社用車を用い、制服を着用するよう義務づけているので、担当は予め出社しておかなくてはいけない。私の娘たちも学院へ就職させていたので、同じようにしている。自分で朝早く起きて出社し、社用車を運転して私を迎えにきてくれる。待ち時間には、家の周囲を箒でもって掃除させたり、玄関の履物を揃えさせたりする。頃合いを見計らって、コーヒーか朝食を出す。

 さて、ここまでの話を聞いた方の中には、「公私混同も甚だしい」とお思いの方もおられるであろう。しかし、私が建設しようとしているのは「共同体」だ。共同体への入門は、まずはその長(おさ)への忠誠心の育成からしか始めようがない。社長と一社員が車というひとつの空間で一時を共にする。私にとってこの時間は、新入社員の人柄に触れると同時に私という人間を知ってもらう、またとない機会である。

 別の観点からいえば、私の命を一新入社員に預けるという大変決意のいる時間でもある。見ず知らずの人を共同体という家族の一員に迎え入れた訳だから、まずは家族の長がその一員に身を委ねることが大切なのである。それを受け止めようと志している人か否かは、即刻回答が出る。そして受け止めようとしてくれる人とだけ家族関係を結べばいい。

 中小企業における一枚岩とは、社長と社員が本当に一心同体になった共通体験を一つひとつ着実に積み上げていくことからしか始まらない。いわば、その門出の意味として「お迎え研修」がある。

今月のまとめ

 運命をともにしてくれる社員を育成することが全てに優先する。これを二の次にすると、長期的には失敗する。①劣悪な環境と条件、そして②その突破口への確信ほど「忠誠を尽くす」社員を育む土壌はない。