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職場結婚ノススメ

博多独楽篇

平成12年4月号「私的経営のこころ 中小企業の生き延びる道(4)」

 私が社員に勧めていることのひとつに職場結婚、社内結婚がある。若い男女を採用するということは、いわば当人たちの人生を預かる訳だから、将来は全員に所帯を持ってもらうことも私の責務である。

 企業に採用され、仕事を教えてもらい、お客様に可愛いがられるだけでなく、生涯の伴侶にもめぐり会えたとすれば、それはもう願ったり叶ったりではないだろうか。その舞台を準備し、提供するのは、経営者としての私の重要な仕事だ。ということは、お互いに生涯を共にするにふさわしいと感じ合え、確認し合える職場環境を作るのも私の任務になってくる。そこには男女間のモラルの確立も加わってくる。

 企業にとってモノを生産し、販売することや、サービスを提供することは、確かにその存立基盤ゆえ決定的に大切なことには違いない。しかし、それに負けず劣らず重要なことは、「決定的に大切なこと」を遂行し続けてくれる社員の「人生」に責任を持とうとするトップの覚悟だ。

 私の企業は常勤社員の数でいえば僅か20数名の所帯だ。その中で、平成3年の5月と11月にそれぞれ一組、平成6年3月に一組と計三組の職場結婚の仲人をした。経緯は三者三様であるが、今でも良かったと思うのは、「職場を挙げて」若いカップルを祝福する慣行を作ったことと、それを伝統にまで高めたことである。

 受験を控えた受講生にとっては講義は絶対だ。だから休講する訳にはいかない。当然、数名は職場に残留させるが、他は全て披露宴に出席させる。会場が遠方ならバス仕立てでも駆けつける。要するに、その日は会社挙げて結婚式一色に染まる。当番も残留の形で、他のメンバーの披露宴出席を下支えするわけだから、まさしく出席そのものである。いわばこうして「公私融合」の村社会が出来上がる。かくして、我が社の社員はムラという共同社会の一員に溶け込んでいくことになる。

 また、仲人をすれば、当然のことながら、両名の実家とは切っても切れない関係になる。三組の仲人をしたということは実家を含めると九組の家族と親戚関係が結ばれたといっても過言ではない。共同社会の拡大である。

 当の二人にとっては、結婚記念日は絶対忘れてもらっては困るので、その日くらいは夫婦になった時の初心に立ち返ってもらおうと思い、夕食は空けてもらうことにしている。毎年、同じところではどうかとも思うので、私たち夫婦は次々と新しい会場を捜し出す喜びを享受している。子供ができれば誕生祝いと、これも又、毎年の楽しみである。中小企業の経営者は「社員が好きで好きでたまらない」というタイプでないとつとまらないと思うゆえんはこういうところにある。