閉じる

メニュー

タイムカードによる退社時刻の管理を廃止して思うこと

博多独楽篇

平成12年7月号「私的経営のこころ 中小企業の生き延びる道(7)」

 「毎朝、出社してまず最初に行っている業務は」と質問したら、皆さんは何と回答するだろうか。正解は、タイムカードを押すことだ。皆さん当然のように出社時刻、退社時刻を記入(打刻)していることと思う。

 当学院も創業当初は、朝、夕と一日2回、社員一人ひとりがタイムカードに勤務時間を記録していた。しかし社員全員が営業を担当する今日においては、一日2回も記録する必要がないとわかり、出社時刻のみ記録している。だから当学院のタイムカードは、退社時刻を記入しない分、6倍長くタイムカードを使用できる訳だ。オモテ面で1月から6月までの1日から15日までを、ウラ面で同じ期間の16日から末日までを記入するので、何と一年が2枚で事足りる。

 退社時刻を管理することなど必要ないと思い到ったのは、会社にいる時間がその本人の達成業績に必ずしも反映されていないと常々考えていたからである。

 当たり前のことだが、営業業務には、残業などない。予定通りの業績を達成したら速やかに帰宅する。仕事上の基本だが、これがなかなか難しい。これは当学院のように社員が全員営業として一元化されているからこそ実施できることだ。

 これは仕事と時間を同義と見倣す戦後のマルクス主義的で無味乾燥な風潮と政策に賛成しかねるがゆえに断行したこともあるが、総務担当者の業務を軽減させる意図もあった。全員が営業兼任者ゆえこういう配慮が必要になってくる。時間は仕事を構成する条件のひとつではあるが、決して仕事そのものではない。主観的にはとにかく、相手のある関係の中では仕事とは成果であり、結果でしかないのだ。百年もの歳月をかけようと上流からの川水をふせぎ止めることができなかったら、それはダムとはいえない。依頼主に完成品の形で納品し、お支払いとして評価されてはじめて仕事といえるのだ。

 以上のような職業倫理を時間をかけて周知徹底させたことが、社員白身の自己管理への道を拓く結果になったと思う。退社時刻を管理しないという決断は、社員一人ひとりに対する全幅の信頼がなければ到底できなかった相談である。しかし、この決断は、社員の一元管理の指標を時間以外から早く見つけ出し、確立し、全社的認知を勝ち取ったことと同時に、それに先立つ息の長い社員教育の実践と家族的共同体倫理の確立があったことを忘れてはいけないと思っている。