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マルチ・軽量・営業力が不況を生き抜くキーワード

博多独楽篇

平成13年5月号「私的経営のこころ 中小企業の生き延びる道(17)」

なぜ、当学院が今日まで生き延びることができたのか

 毎年この時期になると社内で創立記念の訓示を述べるのが恒例となっているが、その内容も年月を経るごとに変化している。これまでは、今年も年度始めを迎えられたのは月刊誌『ライセンスメイト』があったからだとか、天神1丁目の好条件の場所にテナントを構えたからだとか、卒業生で構成する「九栄会」があったからだとか、目に見える“事象”を取り出して総括していたのだが、経験を積むにつれて“理論”を持ってするようになってきた。平成13年の3日における総括を①軽量級の組織づくり、②マルチ型社員の登用、③基本は営業の三つの視点から述べてみる。

社員の基本型はマルチ型

 当学院は「年功主義」「終身雇用」「給料直接手渡し」などと旧態依然とした会社の体質だ。それにも関わらず、さほどやり方を変えずに今日までやってこれているのはなぜだろうか。学院の年間の生徒数が約1000名、その人数に伴う業務をわずか社員9名が主になって切り回している。それはマルチに対応できる社員を集め、少数精鋭でコンパクトな組織づくりを行ってきた結果であるとも言える。組織の規模や形態、社員の人数や資産内容などで、企業の生き方・生き様も多岐にわたる。しかしこの時世では、中小企業はよりコンパクトで、組織を形成する一人ひとりが、よりマルチになり、なおかつ営業が出来なければ生き残ってはいけないのだ。

 例えば社員の一人は宅地建物取引主任者の講義もやり、タイムカードやシフト管理、10のつく日の支払い、『ライセンスメイト』の編集、そして営業までをやる。これをずっと続けているので、改めて考えてみると相当な仕事量だ。では彼が特別なメンバーなのかというと、他の社員も同じように何足ものわらじを履いて、マルチで業務をこなしている。営業関係のスケジュールから広報関連のやりとり、そして採用試験までを一手に引き受ける者もいる。少数体制で、しかも多くの顧客ニーズに応え、サービス業としての付加価値を生み出していくためには社員はマルチ型にならざるを得ない。会社の存続が一人ひとりの肩にかかるわけだ。だから、職員を採用する時に一芸に秀でているより、五芸ぐらいをやりこなす人材を探す。両手で刀を持って、蹴りまで入れるぐらいのバイタリティを期待するのである。

マルチ社員がいくら集まっても、営業力なしでは中小企業は生き残れない

 しかしベースは、私の経営基本理念である「社員皆営」であることは言うまでもない。結局、資金の入りどころである営業力をしっかりと根付かせておかないと、このマルチ型は全部崩れてしまうのだ。こんな話がある。当学院に10年以上出入りしている某広告代埋店の担当者が、「ここに来るようになってからずっと思っていたのですが、営業の人は別の部屋におられるのですか」と聞かれたことがある。その質問に対して「あなたの目の前にいます」と言った時に、彼は大発見だったようで驚愕していた。

 軽量級でやるには構成メンバーはマルチ型、そのベースには営業がなければいけない。そのバランスを崩さない限り中小企業は生き残っていける。仮に当学院が全く畑違いのレストラン経営に乗り出したとしても、おそらく大丈夫であろう。反対に超重量級の強力な大企業が、昨今敗退していく様を傍目に見るにつけ、巨体を維持していく難しさを感じずにはいられない。1000人以上の社員を抱える組織だと、ちょっと売上がダウンすると、途端に経営的に苦しくなる。人員を抱える数が多ければ多いほど、転がり落ちる速度も加速していく。不況に強い、上下の振幅に強い体質はやはり軽量級の組織、そして皆で営業して資金を勝ち取っていこうとする共同体の論理が必要である。巨大資本でも軽量級だった頃を忘れず、社員全員が危機感を常に持っていなければ崩落していく。内部をスリム化して、なおかつ強力な組織体にしていくという姿勢は、小・中・大企業に関わらず大事な事なのだ。これは今後も貫いていかなければいけない。皆で資金を勝ち取って、会社を維持していこうと努力する共同体の諭埋を忘れることから民間企業は敗退していく。原資が国民の税金から流される構造下に置かれない民間企業は、“資金の身の程”“入金の身の程”を、社員全員が自覚しておかなければいけない。