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社員皆営の風土こそ企業防衛の要

博多独楽篇

平成12年5月号「私的経営のこころ 中小企業の生き延びる道(5)」

 経営において私が基本にするのは、「社員皆営」という考え方だ。「社員皆営」とは、社員全員がイコール営業社員でもあるということを指している。ある意味でこれは、社員一人ひとりにとっては厳しい考え方かもしれない。しかしこの考えこそが、これほど同業他社が経営危機に瀕している中、当学院が不景気を乗り越えることができた決定的なキーポイントであると自負している。

 通常、各企業において営業課は、総務や経理などの課と同等の一セクションとして扱われている。確かに営業に関することは、営業課内で対応すれば、社内業務の役割分担が図れ、会社全体の効率化につながる。しかしその仕事の分担方法は、大企業をはじめとした官公庁用の採用の方法であると思う。そもそも官公庁の場合、収入は主に国民の税金で成り立っている。

 一方、民間企業の場合は、営業による収益が会社の土台になっている。言うまでもなく資金が集まらなければ、会社は回っていかない。中小企業にとって営業は、人間が呼吸するのと同じように必要不可欠なものといえる。よく零細は中小の、中小は大手の、そして大手は官公庁の役割分担を見習えといわれるが、私はその考え方に異議を唱えたい。なぜなら本質的に民間企業と官公庁は、全く形態が異なるからだ。だから当学院では、個人の好き嫌いに関係なく、会社に身分を保証してもらうものの神聖な義務として全社員に営業を課している。そして営業がきちんと行える社員に対してのみ、営業と平行して総務、経理、人事といった間接業務をやってもらっている。

 もちろん、この「社員皆営」を施行するにあたっては、この考えに社員が同意してくれるだろうかと私自身かなり悩んだ。残念なことだが、意にそぐわない場合は、たとえ才覚ある社員であっても何人も手放したものだ。

 しかし、この累々たる決断の系譜があったればこそ、社員一人ひとりが学院存続の目標に向かって一丸となれる確固たる結束をもち得たのだと思う。

今月のまとめ

 教育勅語の中に「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ」という一節がある。入社早々まっさきに営業をさせるのは「一旦緩急」の時に逃げ出さない人間であるか否かを見極める上で決定的な人事である。そして「踏みとどまる」胆力のある人間にだけ仕事を伝授する。そういう一騎当千の強者(つわもの)だけで組織を編成していく。たとえいかに年月がかかろうともこの方法以外に「負けない企業」を作る手だてはない。