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終身雇用と実力主義は両立できる

博多独楽篇

平成12年2月号「私的経営のこころ 中小企業の生き延びる道(2)」

 「日本における経営のキーワードがあるとすれば、それは終身雇用と実力主義を両立させることだ」

 これは20年間に及ぶ学校経営で習んだ私の確信ともいえる結論である。今、新聞やテレビなどで「リストラ」という言葉が氾濫し、「実力主義の採用イコール終身雇用の廃止」という風潮になってきている。しかし、私はこの風潮に異議を唱えたい。なぜなら、実力主義とは「人事考課」の方法をいっているのであって、「雇用形態」の一種である終身雇用と同列に論じる訳にはいかないからだ。両者は位相も違うし、次元も異なる問題なのだ。

 私は、企業経営の目的は、①顧客への良質な商品の提供②提供主体たる社員の終身雇用である-と思っている。そして「いかにして」①と②を同時に実現していくか、という設問になって、はじめて「利潤」が問題となってくる。その利潤を効果的・効率的に「追求」するために様々なシステムが考案され体系化されているが、人事考課面では「年功主義」や「実力主義」があるという訳だ。ここまで展開すれば、賢明な読者諸氏は既におわかりいただけると思うが、企業目的のひとつである「終身雇用」に奉仕する手段のひとつに「実力主義」があるということである。

 かくのごとき理由によって私は、経営者としてまず第一になすべきことは社員の雇用を保証することだと考えている。終身雇用とは、社員の一生を経営者(トップ)が預かることであり、それは取りも直さず、社員の側からいえば生涯かけて自己の最大の能力を提供することに他ならない。弊社の場合、定年は70歳と規定している。しかし、それで「おさらば」ではない。その後は、健康で働く意思と能力がある限り嘱託勤務となる。だから弊社は、20歳から70歳までの三代が共に現役で働ける職場となっているし、年長者、年配層の智恵が若い人に職場で継承できるシステムになっている。

 そして、私は以上のような職場を作るためにこの20年間の学校経営徹底して「実力主義」を人事考課の基準にしてやってきた。それも「年功主義」のベース上で上手に機能させてきたと思っている。すなわち、「終身雇用」に「実力主義」を奉仕させる形で両者を両立させてきたのである。

今月のまとめ

 実力主義を人事考課の基準・規範とすることによって適正な利益を生み出す企業経営に成功したならば、その時、その企業は存立目的のもう一方の柱である終身雇用制度を構築できる体質を獲得したことになる。