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採用と不採用 その1

博多独楽篇

平成13年6月号「私的経営のこころ 中小企業の生き延びる道(18)」

「やる気のある人」を採用する

 「やる気のある人」そしてそれを余すことなく「表現していける人」。わたしはこういう人を採用する。

 「やる気は」民間企業、とりわけ中小企業にとっては第一条件である。そもそも企業とは租税収入による予算措置をあてこまないで無から有へと飛躍してできた事業体である。それゆえ企業にとっての一日とは「創業魂」や「企業家精神」と「怠惰という没落や崩壊への甘美な囁き」とのバトル(死闘)といっていい。一週とは7ラウンドのことであり、一年とは365ラウンド続く実戦に他ならない。

 こういう最中に我が身を置くとは、まさに「やる気」を置くことなのだ。「人・物・金」を企業の三大専素という人がいるが、それは必要条件のことをいっているのであって、ポイントはあくまで最大の構成要素である「人」の「やる気」である。

 まさに「やる気」があるから「起ちあげた」のであり、「やる気」があるから、「応募」したのである。つまり、「やる気」や「志」(ころざし)が報っていればこその「人・物・金」なのだ。私が「やる気」や「志」をもって中小企業の十分条件、成功条件と考えるゆえんである。

「やる気のない人」を採用しない

 ここから言えることは中小企業は絶対に「やる気のない人」を採用してはならないということだ。数式でいえばそれは「△=マイナス」をかかえ込むことに外ならず、まかりまちがえば「倒産」に直結する。だから、どんなに困っても・極端な話、自分一人だけになることが十分予想されても絶対に「やる気のない人」を採用してはいけない。所詮自分一人から始めたわけだから、時々「創業時の経験」を想起し、初心に帰るのもいい。

 ①学歴や学力があっても「やる気がない」

 ②若くて健康だが「やる気がない」

 ③指導力や実力がありそうだが「やる気がない」

 ④経験豊富だが「やる気がない」

 ⑤顔が広いが「やる気がない」

 ⑥育ちが良さそうだが「やる気がない」

 ⑦容姿端麗だが「やる気がない」

 ⑧縁故であっても「やる気がない」

 ⑨協調性があるが「やる気がない」

 ⑩礼儀正しいが「やる気がない」

 etc。

 如何に隊伍は整いて

 節制乱れずありとても

 忠節存せぬ軍隊は

 烏合の兵に異ならず

 いかでか敵にあたるべき

 これは「軍人勅諭」という曲の一節であるが、ここでいう「忠節」を「やる気」に置き換えてみればもっと判りやすいと思うが、いかがなものだろうか!

一人で面接をしてはいけない

 更に重要なことは決して一人で面接をしてはいけない、ということだ。人の判断はとかく主観に流れやすいし、流されやすい。現場で直接使っていくことになる上司予定者を同席させるのはいわずもがな、男女両性の目で見ることが大切である。そして、むしろ経営者の判断より信頼している「人事担当者=上司予定者」の意見を重視したほうが無難である。オーナーや経営トップの前では「借りてきた猫」のようであっても、現場に配属された途端に豹変した例を余りにも多く知っているからだ。その点現場の担当ははじめから豹変を想定して相手を見るからシビアである。もうひとつ大切なことは、こういう陣型で面接することで現場のメンバーに応募者の「面接時における初心に満ちたフレッシュな姿」を印象付けることが可能になることだ。それは採用される者の採用後の豹変を一定期間防止する抑止効果がある。厳しい条件のヤリトリの一部始終に参加させることで、配属後に時々発生する採用条件等をめぐっての不毛の齟齬を予めシャットアウトできるわけだ。

 現場担当者を同席させず採用すると、当の本人が現場に配属されたあとそこの責任者に、①「トップとの間にされてもいない約束」②「極小の取り決めである社則」を「極大の努力目標」ではなかったのかとうそぶかれた時、周囲は全く反論できないものだ。中小零細企業の年次計画などは脆いもので、この程度の「蟻の一穴」で大幅に狂ったりする。だから「たかが採用」と思わずに「後継者の発掘」という重みで対応するのが中小企業の健全な姿勢であろう。