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立ち退きをいわれたら(その3・完)

ライセンスメイト篇

平成10年6月号「サイレントマジョリティ」

その16〈総括基軸をうちたてる〉

 結局のところ立ち退きに応じる応じないは、現象的には大変なことであるが、もっと重要な問題は応じる側がいかなる総括基軸をもって対応したかだ。

 補償の問題もたしかに大変な問題ではあるが、立ち退きを強いられたものとして、受動的に把えている限り大した企業的前進は望みえないであろう。確かに歴史的なある時点では強いられたことには違いない。

 しかし、大きな経営計画の中では天によってプラス転換のための契機が与えられたとして感謝すべきことであろう。

 このように能動的に把えることにより、積極的に立ち退きに対峙していくことができるのである。つまり、ここで経営のテーマに組み込まれたのである。

その17〈リストラ断行の「天の時」〉

 まず、立ち退きによる移転をどう位置つけるかの問題だが、リストラを断行する好機到来として位置づけるべきだろう。およそ、リストラなどというものを実行するには誰しもが認める正当性あふれるよほどの理由か事情が必要である。それが大義名分というものだ。

 それは、企業体なるものへのロイヤルティをいささかも失わせしめることなく遂行しなければならないからだ。よほどの経営手腕も問われるだろう。

 頭ではわかっているつもりだが、現在まで自社の依ってたってきた基盤を破砕しつくすなど、あたりまえの神経ではとてもできるはずがない。破壊の上にしか建設はできないというが、それは言葉でいうほど生易しいものではないのだ。

 私がいうのは、本物のリストラであってリストラごっこではない。悪い身体とは知りつつも、医師から切開してもらわないと手術ができないのもそのためだ。自分で自分の身体にメスを入れるなどとても出来るものではない。

 「天の時、地の利、人の和」というが「地の利」を失わず、また「人の和」にいささかの亀裂も生じさせずにリストラを断行できる「天の時」として「立ち退き」を位置づけることが最も肝要なことではないだろうか。

その18〈敷金〉

 次に自己都合にもとずく通常の移転と違い、主張することにより原状回復の義務が免除される。それは敷金が全額返還されることでこの意味は大きい。長い間、無償で預かっていただいた敷金だが、長い企業経営の中で全額返還されたという経験を持つ経営者は意外と少ないのではないだろうか。敷金はほとんど返ってこないと考えている人が大半であろう。同じ移転でも自主的な退去と立ち退きとではこうも違うものである。これを経営に生かさない手はない。

その19〈営業保証金〉

 場所がかわることによって業績の下方修正を余儀なくされるのは一定期間仕方のないことである。しかし、自主的退去と異なり、立ち退きに応じた場合のみ、強力に主張することにより補償金が出る。その金額の大小もさることながら、粗利部分の追加として補償金を位置づければ有難い話である。借り入れを返済し、企業の赤字体質や財務内容を改善する絶好のチャンスにすべきだろう。

その20〈仮店舗と再入居〉

 立ち退いてそのままのケースもあるが、新しく建てかえられる予定の建物に再入居という形でカムバックするケースは、その工事期間だけでも別の建物を仮店舗として準備してもらわなければいけない。そして、たとえ仮店舗とはいえ、従来の場所と同等かそれ以上の立地のところでないと納得すべきではないであろう。

 また、工事期間満了後、再入居する際に仮店舗で原状回復を義務づけられるわけにはいかないので、これも明文化しておく必要がある。

 再入居希望の場合は、入居するフロアー、面積、賃料、時期などできるだけ細かいところまでオーナーと書面にて取り決めをしておくことが必要である。それがないと、いざ再入居という段になって様々な面で折り合いがつかず、結局諦めざるを得なくなる。

 仮店舗における営業を保証してもらうのみならず、将来における経営環境も保証してもらうことが決定的に重要である。

 立ち退きというピンチを最大限チャンスとして生かしてこそ経営であり事業といえるのではないだろうか。立ち退きを決して忌まわしいもの、避けて通りたいものとしてマイナスのイメージで把えることなく、事業の飛躍の絶好の好機として把え位置付けることにより、この事態に積極果敢に挑みかかってもらいたいものである。

 日日創業、日日感謝の精神で、自然体で事態に対応すれば必ず道は拓けるものと信ずる次第である。