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夢の方舟に乗って その2

博多独楽篇

平成13年1月号「私的経営のこころ 中小企業の生き延びる道(13)」

中小企業の生き残る道は「特化」すること

 先月号では、新しい天神121ビルへの移転の話をした。これも企業の生き残りを賭けての決断だったのだが、これからの中小企業には、会社を存続させていくのに必要不可欠なものがある。それは何かに「特化」した体質を持つ企業になるということだ。

 昨年1月号『私的経営のこころ』の一番冒頭で既述したが、昭和63年に私は経営者としての独自のカラーを提言した。それは、社員のトップに対する業績面での強い依頼、依存心は企業にとって多くの危険性をはらんでいるということで、会社全体の売上の約3分の2を確保していた私が第一線から手を引くことにしたことだ。売上減少、社員の相次ぐ辞職と次第に経営危機にも追い込まれていった。しかしトップが恐れ慄いて決断出来ず、濃厚なオリジナルカラーを出せないのであれは、これからの中小企業は生き残っていけないだろう。現にそうやってきた私は、「自分たちの職場は自分たちの力で自分たちのために守ろう」という社員一人ひとりの思いに支えられ、今日まで船を沈ませずにやってこれている。

 もちろん20年の間には山もあり谷もあった。極端な話になるが昭和56年に開設した建築士の講座においては、3年後の昭和59年に新規入学ゼロを経験している。しかし面白いもので、いったん“ゼロ”になってしまうと人間は自分の心を新たに出来る。変に未練が残されていると、心を真っ白にすることはなかなか難しい。まさに“ゼロ”からのはじまり。そうならなければ、別の手法など考えることもなかっただろう。それから今の200名前後の生徒数になるまで15年かかった。失敗も全て勉強だ。

 そして、今また登らなければならない山がある。それは昨今の自由化、規制緩和、グローバリゼーションなど、アメリカ特有の営業手法の広がりだ。こうなると、今まで認可を受けてきた人たちのメリットや統制が崩れるので、彼らの代行業が現れるだろう。すると苦労して資格を取得し、民衆に、国民に奉仕するという事業が成り立たなくなり、銭金論が大手を振るようになる。これはサービス車検の定義と似ている。確かに価格は安い、安いがすぐにポンコツ車になる。質より量の考え方だ。不動産業界や建設業界は、その人の姿を通してビジョンを見ることのできる士業。つまり、仕事にその人物が係わる比重が大きいのだが、世の中が“誰でもやれる土地家屋調査士”で事足りてしまったら、士業は風前の灯火だ。

量の時代に敢えて質にこだわる理由

 値段の勝負だけであってよいのか。そんな時流の中で、あえて私は質にこだわり続けたい。不動産・建設業界に本当によい人材を提供する。あるいは、既にこの世界でがんばっている人がリファインする場を設けたいのだ。ベルトコンベアーのようにトコロテン式に生徒を卒業させるのではなく、学校の考え方、ビジョンを知ってもらったうえで通学してもらう。合格のためだけの勉強じゃない、本筋を学んでいった生徒は、それでちゃんと食っていけているのだ。それは学院の誇りでもある。

 少なくとも私は、不動産・建設業界の質を高めるための土壌づくりをやっていると自負している。地味で目立たない仕事だが、土がないことには花も咲かない。社会人にもなると、会社の帰りに学校へ行くということはあるが、学校のついでに会社に行く人はいないのだ。もっと荒っぽく例えると、正妻でなくして妾。それを弁えている。だから場所は、街中の利便性のよい所に限定しなければならない。そしてそれが、我々にとって「特化」すべきことの一つだ。

「特化」することこそが生きるたくましさ

 中小企業は力量を「特化」しなければ、大手に太刀打ちできない。大手の場合は例えその事業が失敗したとしても、部門の失敗と首のすげ替えで解決できる。しかし、小さな会社はそうはいかない。一事業の失敗が倒産につながる。だから何を言われようと、柳に風で身をかわしながら押し渡って行かなければいけない。

 話は変るが、かの有名な「ダーウィンの進化論」を思い出してほしい。ガラパゴス諸島のイグアナたちは、陸と海にそれぞれが「特化」した体を持ち住み分けをしたことにより、狭い島の中で今まで生き延びてきた。企業もまた同じく、サバイバル精神を持ち続けなければ一代限りで終焉してしまうだろう。殊に中小企業の生き残りの道は、いかに「特化」するか、経営者がいかにオリジナリティを打ち出せるかにあるのだ。