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たかが祝賀会、されど祝賀会

博多独楽篇

平成13年2月号「私的経営のこころ 中小企業の生き延びる道(14)」

経営者に必要な5項目

 何かの物事を成し遂げる時、経営者に必要なのは、次の5点だ。

一、意志:全体を勝利に導く確固たる意志

二、動員:勝利を形作る人的資源(中核体)の運用

三、論理:「二」以外の様々な人を決起させるに足る固有の論理

四、執行:実行に際しての断乎たる決断(「最後の迷い」との戦いに勝つということ)

五、総括:勝利体験の文字化・共有化と協力・協賛者への謝意の表明

 何がしかの会を行うこと一つ取り上げても、これらの要素が不可欠となる。その例として、昭和60年から16年間継続している当学院の「卒業式・合格者祝賀会」を挙げてみたい。

 当初は①38名の合格者に②社員が加わったささやかな催しであったが、現在では③卒業生で構成される「九栄会」④講師⑤不動産・建設をはじめとする関係各業界⑥当学院の取引業者等の皆様方にもご参加頂く公的な行事となっている。というのはトップの任務として、パブリックな場で「社員や顧客である受講生に達成感を味わせる」ことと「その達成に様々な形で力を貸して頂いた周囲の人々に感謝の意を表す」ことがあるからだ。これは「私の意志」であると同時に「役員・管理職を先頭とする全体の意思決定」の賜物である。

 次なる課題の「動員」は、前述した講師をはじめとする関係各位の方々へ対する呼び掛けからスタートする。その際、役立ったのが(1)『ライセンスメイト』と(2)業者へ手渡しで行う支払い方式だ。(1)は月刊誌であるから不断の取材作業につきまとわれる。しかし、そのお陰で毎月思わぬ方々と面識が出来る。当然、その中には関係各業界のトップの皆様も含まれる。それを一過性の関係に終わらしてしまうか、少なくとも年に一回の祝賀会程度には来賓としてご出席頂ける関係にするかで以後の関係はかなり変わってくる。取引業者への手渡しの支払いにしても、直接対面して祝賀会にご出席いただくようお願いできるメリットがある。通り一遍の文章だけでは、人の心は動かない。近頃、相手に気迫を伝えられる経営者が少なくなってきた。

 祝賀会には実に様々な人が集うことになるが、全てに亘って固有の理由があるものだ。入学する前に当学院に問合せするきっかけとなる新聞広告、問合せには電話回線を使うかもしれない。“新聞と代理店と電話会社のおかげ”がないと、学院と学びたい人との接点が持てない。そこからも参加や協力の意義が発生してくる。講師には、支払う講師料は生徒さんが合格を目指し汗を流して稼いだ貴重なお金を支払うことで成り立っているわけだから、当の本人が目的を達成した時の喜びをどうか共に喜んでもらいたいとお願いすることにしている。こうした関係は私たちに関係する一切の皆様に派生し、展開していくことになる。これが経営者必須事項三の「論理」だ。

経営者に大切な根回しの術

 この講師との面談の時に、行事に参加できない先生に対しては無条件で講師料から5,000円を天引きするという事前の断わりを入れる。これは「動員」を確保するための工夫、つまり根回しだ。第四番目に挙げた「執行」には、この根回しが重要な役割を果たす。祝賀会の開催には、「意志」だけでなく財政的な裏付けも必要だ。そのため、参加者には必ず僅かであるが、前日までに会費を納めて頂く。本当は主賓である卒業生・合格者からは頂かなくてもいいのだが、それでは皆目「数」が読めない。「数を読む」とは「事前の把握」に他ならないので、「口頭の表明」だけでなく、「入金の確認」を前日までに全て済ませるようにしている。一過性のものからルーチンの行事にしていくためには、財政基盤の確立が絶対課題となってくるのだ。そして、この点での成功が決定的な要素になる。

 以上、準備段階の話を長々と展開させて頂いたが、これで8割方の成功を確保できるからそうした次第である。あとの2割は実際の「実行」とその後の「後処理」だ。これは別の機会に展開するとして、たかが祝賀会に経営者の心構えとは大袈裟なと思われるかもしれないが、これは生徒さんに対して単純にお祝いするというだけの企画ではない。私の考え方は、十年一単位。十年やればたいていの物事は習熟する。この祝賀会もいろいろな要素が年期を経て練り上げられ、一年のけじめをつける確固たる行事になってきた。物事は全て「ケリ」をつけなければ、健全な前進は望みえない。祝賀会とは、私と当学院を前に進めるためのこの上なく大事な儀式なのである。