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人事の要諦は素材にあり

ライセンスメイト篇

平成16年10月号「人と意見 心の経営ゼミナール 第9回」

「わが国における経営のキーワードがあるとすれば、それは終身雇用と実力主義を両立させることだ」

 このシリーズでは、私が24年間に及ぶ学校経営から肌で感じ取った中小企業の経営ノウハウを計12回に亘って紹介させていただく。

 小規模の企業を経営していると「小さいがゆえの問題」にそれこそこれでもかこれでもかとさいなまれる。よくぞこれだけ悩みの種があるものかと驚きを通りこして感嘆すら覚える。今回はこれらの問題の中でも入社希望者の確保と採用にあたっての判断基準について展開してみよう。

入社の無限連鎖を作る

 企業活動とは人事面からみると就職(就労)によって退職を補っていく無限連鎖の過程ともいえる。新人の流入局面で中断が生ずると、構成員の平均年齢の老齢化が徐々に進行し、この点での打開がおくれるとそのスピードは一気に加速する。長年にわたる新生児の激減により、わが国・日本が全体としてかくなる局面に突入している昨今、個別企業だけが例外を呈することは土台無理な話とはいえ、やはり社業の興隆を図らんと持論を展開してみよう。

花嫁を迎える心境

 企業が新人を採用するということは「わが国風」にいえば、丁度花嫁を迎える心境に近い。というのは企業という「家」に嫁いでもらわないといけないからだ。しかも、前提としての交際期間がないため「お見合い結婚」のようなものである。大手と違って中小零細は構成員数が少ないため、「水に合わない」人間に入られたらそれこそ大変なことになる。経験からいえることだが、そういう人間は例外なく早期退職(3年未満の退職)している。

 しかし、問題はそれだけにとどまらず、相当の爪跡を残して去っていくこともある。ひっかき回された方はたまったものではない。その修復に3年から5年かかる場合すらあるのだ。

迎えてくれる家のすべてを受け入れる度量を求める

 他人の家に嫁ぐということであれば、まずは己自身を徹底して空しくする謙虚さを求めることにしている。新卒であれ、中途であれ、この点での妥協は企業にとっての死だ。長く勤めてもらっている歴戦の家臣団に対して恩返しできることはせいぜいこの点ぐらいしかない。忠勤と人徳に対しては地位をもって、実力と功績に対しては恩賞(報酬)をもって待遇することが人事の鉄則ゆえ、その両者ともが全く未知数の新人に対してはとにかく「今までの自分は捨てろ」と要求する。それはすべてを捨てることのできる人でしか、すべてを獲得することができないからであり、中小零細は「すべてを獲得することのできる人」しか必要ないからなのである。

共同社会(=家族)の一員にさせる

 譬をかえてみれば、新人社員は家族における新生児みたいなものである。何の役にも立たないばかりか、たえず周囲の力と保護を必要とする。それでいてあたりかまわず手にするものを口に入れる様は、何でも一人前にやろうとする無鉄砲な懸命さに似ている。失敗は先輩や会社のせい、成功は自分の力と思う誤った自信も、子供の成長過程そのままだ。しかし、そうこうしてでも辛抱強くも暖かい心で抱え込んでいかなければ子供は死んでしまうし、いわんや家族の一員にすることなど到底できることではない。

 又、家(=企業)を単位とする族(=仲間)の構成員として認知していくためにはお互いに守り、守らせる掟の存在も判らせる必要がある。新人の教育に峻厳さという要素も不可欠な所以である。

鉄(良い素材)は熱いうちに打て

 経営者である私の役どころといえばまずは自らの事業体を小なりといえども入社したくなる会社に作り変えることである。次になすべきことは、それを広く世に告知し、入社したい人(応募者)の流れを作ることだ。第三になすべきことは作られた応募者の奔流の中からわが社(家族)の一員とするにふさわしい素材を見極め内定することである。そして、見極め内定した相手が、本物か否か確認するために、「お見合い結婚」ゆえに設けようにもできなかった「交際期間」を人為的、計画的に作り出すことが第四の作業といえる。しかるのちにわが社にふさわしい立派な素材だと確認できれば、はじめて試採用し、就労させることとする。いわゆる第五の作業である。