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業績悪化と解雇は矛盾する その2

博多独楽篇

平成12年9月号「私的経営のこころ 中小企業の生き延びる道(9)」

 前回、経営者は環境的に厳しければ厳しいほど「非借入」で対応する覚悟をまず決めねばならないと述べた。

 それでも状況が好転しない際、第二の方策として行っているのは、社員への耐乏の呼びかけである。私の場合は、社員の給与を引き下げることから始めている。社員全員の前で「今まで通りの待遇はできないので、給与引き下げに協力していただきたい」と直接呼びかけている。また周知徹底を図るために掲示も行う。

 ここまでの話を聞いた読者の中には、「なんて酷い会社だ」と憤慨なさる方もいるかもしれない。けれどもである。企業とは、ひとつの運命共同体なのである。ということは、業績悪化などという理由での解雇はそもそもあり得ないはず。自分の給料が下がったからといって妻や子と縁を切る夫や親がいるだろうか。下がった給料のもとで一家がともに辛抱して耐え忍び、次なる飛躍の時までがんばるしかないではないか。これが「共同体」というものである。

 それでも好転しない場合は、いよいよ減額の実行と支給日の変更である。またそれをベースにした周辺部分への協力の呼びかけである。給与の減額でいくと最大では75%まで控除したことがある。つまり25%しか支給されない計算になるが、解雇よりはよっぽどいい。共同体にとって解雇とは絶縁である。共同体への背信行為がその原因であるならばやむを得ない面もあるが、たかだか業績の悪化程度で離縁していたのでは、その経営者ははじめから会社を始める資格はないというものだ。また支給目については一斉支給を改め二段階、三段階支給にしていく。勿論、職階と給与の低いメンバーはあたり前の日に、職階と給与の高いメンバーは10日遅れとかという具合に経理がきつくないように配慮している。

 周辺への呼びかけとは、仕入先に対する呼びかけを指す。しかしこれは最後に回すべきだろう。なぜなら安易に矛盾を周囲に押し付けて自助努力しない企業があまりにも多いからだ。相手方に協力を要請する場合は、まず己自身が八方手を尽くすことが基本である。自らが血を流す覚悟と実践なしに他人に出血を強要するなど論外というはかない。

 一日三食になれた人が、一日二食に、そして一食にすることは大変なことに違いない。しかし、譬え一日一食にしてでも家族の中の誰をも殺さないことが肝要である。だから私は業績悪化を理由に社員を解雇する経営者、すなわち共同体の建設を最上位におかない経営者は基本的に信用しないことにしている。